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ダンディズムな声色で子供のように言葉を伸ばす男の顔には、変わらず微笑みが張り付いている。
「なにを……」
迫る異常は問うよりも早かった。
男の背にあった壁代わりの大きなガラス。展望に配慮した結果の造りであろうそれの向こうに見えた一台の赤いバイク。ヘルメットもせずそれに股がった人間が一人。猛犬宛ら唸りをあげるエンジン。
そいつは道路と垂直になるよう位置して――笑っていた。
そいつはまっすぐこちらを見て――笑っていた。
「……はあ?」
浮かんだ未来予想図。だけどそんなわけあるもんか。根拠に欠けた決めつけで、ざわついた胸を落ち着かせる。
そんな僕の見ている前で、堂々と。
「おいおい……!」
バイクは店への進行を開始した。
「おいおいおい!」
一度始めてしまえばそれはあっという間。
ぐんぐん互いの距離は縮まっていき、そして――。
「レェッツパァアリィイ!!」
果てしない高揚を反映した声と共に〝そいつ〟はバイクごとガラスを豪快に割り、ダイナミック入店をかました。
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