狂喜のピストルとイノセントデビル

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 その迫力たるや言うに及ばず。ガラスが『パリン』の十乗、あるいは力一杯『ガシャーン』を叩きつけたような音で飛散する。  僕は反射的に両腕で顔を覆った。そしてその隙間から事態を注視する。  男はそのまま宙でさらに跳んだ。乗り捨てられ主人を無くしたバイクが、店内奥へ暴れながら滑っていく。  風を受けて乱れる短い赤髪。吊り上がった眼が映すのは…………僕? 「アイロニクス、ジェットファイアー!」  出来事の把握に時間を要している僕を置いて、現実はスナップで加速していく。  辛うじてまだ視界に映っていた外人。その外人が懐から取り出したのは――平和な日本だからこそ余計に目立つ、男に似合いの殺人器具だった。  即ち――――ピストル。 「ッ!」  僕が息を呑んだのと外人が赤髪の男にピストルを投げ渡したのはどちらが先のことだったか。  スタントマンばりの完璧なタイミングでそれを受け取った男が、楽しげな笑みを浮かべて、銃口を、こちらに、向け――――
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