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「固まるな戯(たわ)けが!」
ぐらり。横からの強い圧で重心が傾く。
力の正体は先刻まで話をしていた少女――ピカレスクだった。
小さな身体で僕を押し倒したピカレスク。同時にけたたましい銃声が轟く。
「ヒャハァア!」
近くにあった食事用のステンレス机を咄嗟に蹴り倒す。間髪入れず、その机に弾丸が防がれた。
「しっかりせぬか、零! 死ぬぞ!」
耳元で、銃声を掻き消さんばかりの甲高い怒鳴り声。
「なんだあの狂人は!? って、それどころじゃない!」
命を狙われる縁も謂れもないけれど、とりあえず。
「おまえはここにいろ! 僕は逃げる!」
「バカを言うな! 一人で逃げてなんになる!?」
「言葉を返すぞ。二人で逃げてなんになる!? この騒ぎだ。どうせじきに警察が駆けつけてくる。それまでなんとか――」
「どの騒ぎじゃ?」
「はっ?」
そういえば、この状況で絶対に必要なものが欠けていた。
無残に割れたガラス。ダイナミック入店。銃乱射魔。
こんなにも圧倒的非日常が一気に押し寄せているというのに、おかしい。そんなバカな。どうして。
――どうして誰も悲鳴をあげていない?
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