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「アイロニクス、トーラス・レージングブルだ!」
着地した男の要求に答えるのは、アイロニクスと呼ばれる屈強な体格の外人。
彼はまた別の拳銃を男に投げ渡す。
「まずい……! 立つのじゃ、零!」
「立てって……おい!」
ピカレスクはボロボロになった机を男に蹴り飛ばして、立ち上がるや否や僕の手を引っ張り店の外へと続く扉の方へ。
「それじゃ射撃ゲームの的だぜェ?」
悦にまみれた言葉が背筋に張り付く。
「走らんか、早く!」
「走ってるよ!」
中学生に先導される高校生ってなんだ。
「おまえこそ急げ!」
僕は速度を上げて、逆にピカレスクの手を引いた。
そして眼前の扉を蹴り開ける。
「よしっ!」
逃げられる。そう確信した瞬間だった。
一発の銃声が――――一際よく響いた。
「あぐっ……!!」
すぐ後ろで聴こえた、悶え咽ぶような声。
「どうし――」
「いいから走るのじゃッ!」
振り向こうとしたところで、一喝。
しかたなく、僕はそのまま外へ出てもしばらく走り続けた。
ちらと見た殺人未遂の現場では、もう明らかに不自然なレベルで誰もが動きを止めていて。まるで時間が進むことを忘れたようだった。
――たった一人、ニヤリと不気味に笑う犯罪者を除いて。
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