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――――
「もう、いいか」
路地裏。雑居ビル群の影に身を潜め、荒くなった呼吸を調える。
「これ、くらいで、息切れとは、御主は、引きこもりか」
「超帰宅部だ」
一先ず平常心を取り戻すべく、僕以上にぜぇぜぇ言っているピカレスクに天を仰ぎながらくだらない冗談を飛ばす。
まあ、中学生女子なのだから体力が少ないのは当たり前のことなんだけど。
「……悪かったな、助けてもらって」
「言ったじゃろ、我輩と御主は一心同体。死ぬときは一緒じゃと。それと、助けてもらって言うべき言葉が違っておる」
「……そうだな。【臆面は感謝のあとに続くもの】だ。ありがとう――ピカレスク」
【感謝は相手の目を見て言うもの】だ。そんな定義の下、僕は僕を結果的に救ってくれた少女を見て、仰天した。
「ッ! おまえ、その血!」
右肩周辺が赤黒く染まった制服。そこを茶碗程度の大きさしかない手が押さえていた。
青い顔をした少女は苦苦しく笑いながら語る。
「逃げる間際に一発喰ろうてしもうての……。中途半端に体内で埋もれることなく、スッキリ貫通してくれたのが不幸中の幸いじゃった」
「笑ってる場合かバカ野郎ッ!」
「笑ってる場合じゃバカ野郎」
そう言うとおもむろにピカレスクは服のボタンを外し、ガバリとはぐって撃たれた肩を露出させてみせた。
「……!」
僕は驚きで言葉を失う。無論、ペタンコだろうと一応ブラジャーはしているんだ、などということにではない。
傷が、貫通して穴の空いているはずの傷口が――まるでなにもなかったかのようにふさがっていたのだ。
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