狂喜のピストルとイノセントデビル

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「とにかく僕は誰も殺す気はないし、殺される気もない。現実味を欠いた銃撃戦の相棒は他を当たってくれ」  生憎まだ警察の厄介になるわけにはいかないんでね。  そう付け足した僕の意見を、ピカレスクは一つの問いで攻め立てた。 「零はおかしなことを言うな。生きるというのはそれ自体が戦うことで、誰かを殺すということなのじゃぞ。御主の誰も殺さないし殺されないというのは『命を生かさない』と宣言しているのと相違ないが?」 「おかしなことを言ってるのはおまえのほうだ。僕は今日まで生きてきたが、誰も殺してなんかいない」 「殺しておるよ、存分に。己が幸福であるためにどこかの他人を不幸にし、満腹になるため誰かを飢えさせる。そういうふうに、世界は決して釣り合うことのない天秤でできておる。『与える』などという行為は、窃盗物を『返却する』ことをさも恩着せがましく表現した言葉にすぎない。常に立場は奪う側と奪われる側の二つだけ。だから御主が今日までこうして生きている以上、その犠牲者の数を数えるのに、両の指では足るまいよ。御主は紛うことなき大量殺人者じゃ。その自覚を持て」
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