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丘陵に背中を預け、一面に散りばめられた天空の宝石を眺めながら語らう友が一組。
その目を輝かせるのは、おそらく星々だけではなかった。
「続けばいいのにね、こんな日が」
少女がぽつりと呟いた。
「続くさ、きっと」
瞳に美しい夜空を映したまま、少年は至らぬ答えを世界に零す。
訪れた沈黙は幾何(いくばく)。
「ねえ」
「なに?」
「仮になんでも思い通りにできる力があったとして、私達にはいったいなにができると思う?」
隣から放られた夢物語の空論が緩やかな放物線を描く。
突然なにを、と少年は思った。
しかし『可能』を『願望』に置き換えたなら、存外案を出すのは容易い。
「僕はおまえにこれ以上騙されないような人間になりたいね」
暫時キョトンとして静寂に溶け込んだ少女は、やがて楽しそうに笑う。
「だったら私はもっと嘘が上手くなれるよう、あの流れ星にでも祈ってみようかな」
それは子供というにはあまりに大人びた――しかし大人というにはあまりに幼かった少年と少女が犯した最初の間違い。
斜に構えることしかできず、真を嘘で覆うしか人と関わる術を知らないペテン師の遊び歌にあったほんのワンフレーズ。
例えそこにあったとしても。そのことに気づいていたとしても。彼にとって、彼女にとって、存在する一の真実を証明することは――数多の歪みで完全な虚構を装うよりも難しかった。
「そろそろ、帰ろうか」
「ええ、そうしましょう」
遥か彼方に浮かんだ満月が、哀れな二人を朧に照らし続ける。
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