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できるだけ人目につかない日陰を、一人、歩く。こそこそと。
イノセントデビルはおいてきた。あいつといたらろくなことにならない。店を出ておよそ十分。悟るには余りある時間だった。【悪意なき悪為ほど性質の悪いものはない】からな。
なにはさておき、目下僕が掲げる金科玉条の目標は『殺されないこと』である。こんなイカれた催しに巻き込まれただけで既に最悪なのに、その上命を落としたらそれはなんだ? 災厄か? 笑えない。鬱憤まみれの心中モノローグを引き連れ、何度目かの角を曲がる。
「――ヒャハ!」
――とりあえず、今日の運勢は最低だった。
僕が迂闊だったのもあるが、もうなんかいろいろとバッドで泣きたい。出くわした咎人と、どこかのバカよりよっぽど頼りになりそうな悪魔を瞳に映して、刹那的にそんなことを思ってみる。
「チッ!」
銃声が鳴り響くと同時、僕は先刻出てきた角に隠れる。
「アイロニクス、スタームルガー・ブラックホーク!」
「待った!」
楽しそうに聞いたこともない拳銃の名前を叫ぶ男へ制止の声を。
「あぁん?」
一先ず話ができそうなのを感じて、僕は広げた両手をだらりと挙げながらおずおずと姿を晒した。
「早まるな。僕は争う気なんてないんだ」
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