狂喜のピストルとイノセントデビル

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「待て」  塩のたっぷり付着した指が、僕の制服の袖を掴む。 「ああ待つよ」  と言ってホントに待ったらバカだ。 「待て、零」  今度はケチャップのついたほうで掴んできやがった。白い夏服が、白かった夏服に変わった瞬間である。  そうした犯人は、ちぢれ麺みたいに短くてもやしみたいに細い指のくせに、なかなか掴んだ袖を離さない。放せない。 「……なんだ? 高校生にとっては、たったの百円だって無くしたくない大切な重さなんだ。なのにこれ以上僕の財布を軽くしようというのなら、こっちにも考えがあるぞ」  嘘。出るところすら満足に出ていない、見たところ中学生成り立てくらいの女子相手に可能な強行策を僕は持ち合わせていない。  対して、ピカレスクはもうちょっと気の効いた反応はないのかってくらいに落ち着いていた。 「まあ座れ、零。此度の働き、誠に御苦労様であった」 「そりゃどうも」  ……名前、教えるんじゃなかったな。ため息ついでに腰を下ろしながら後悔。 「ついては褒美として、御主に『救済のチャンス』をやろう」 「救済のチャンス?」  重症だ。こいつ、電波な上に厨二病を患っている。中二になっているかも怪しいのに。 「そう。救うも救われるも御主の自由」 「バカバカしい。僕を救うと言うのなら、まず僕以外の全てを救ってみせろ」 「勘違いするでない。我輩はあくまでチャンスをやるだけ。救世主(メシア)の立場に立つのは御主で、立てるかどうかは御主次第じゃ」  ドリンクに差したストローをくわえながら、ピカレスクはそう言った。
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