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「た、助け……助けてくれ……喰われちまう!死にたくねぇ……死にたくねぇよぉ……!!」
セレスに気付いた男は、涙や鼻水、唾液と血に濡れた顔を向け、左腕だけで這いながら必死にそう訴えた。
首を反らして噛み砕いた肉を飲み込んだ魔物が、男の命乞いを無視して再び口を開ける。
咄嗟に剣を抜いて飛び出したセレスは、その上顎に向かって刃を突き立てた。
【ギャンッ!!】
溢れた鮮血を浴びながらも剣を引き抜いたセレスは、無造作に顔を拭って簡易魔導を放つ。
「ライトニング・ベガ!」
切っ先から伸びた雷は、光の一閃を描いて黒い魔物に食らい付く。
衝撃波でローブが外れた事さえも意識になく、セレスは重い音を立てながら地に倒れた魔物を一瞥し、男の方へと視線を向けた。
「命が惜しかったら逃げて下さい!痛かろうが何だろうが、人生最大の脚力の見せどころですよ!!」
「す、すまねぇ……っ」
声を荒げて逃走を促したセレスに、感謝を示した男の顔が強張る。
「ひっ……!ひいぃぃ……だ、ダンケルハイト!てめぇ、ダンケルハイトだったのかよ!!畜生……何でこんな所に……っ」
悔し涙を流してそう呻く男は、まさかこの期に及んでセレスを宿敵と判断したのだろうか。
憎悪でギラつく目を一心にセレスへと向けながら、彼は慣れない左腕で刃こぼれした剣を抜き去った。
「ちょっ……どれだけ空気が読めないんですか!?そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
「うるせぇ!ダンケルハイトに守られて生き延びるなんざ、冗談じゃねぇんだよ!!」
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