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死にたくないと言っていた舌の根も乾かぬ内に、男はなけなしのプライドで剣を構えた。
そうこうしている間にも復活した魔物の爪が、セレスへと襲い掛かる。
寸でのところで飛び退いたセレスは、空中で回転しながら魔物の腕を切り落とした。
【ギャアァァッ!!】
闇をつんざくような悲鳴が上がるも、致命傷には及ばない。
だが、着地したセレスが見たのは信じられない光景だった。
切断したはずの腕が本体へ向かって筋を伸ばし、瞬く間にそれは傷口一つ残す事なく修復されたのだ。
「うおぉぉぉっ!!」
「っ……!?」
我が目を疑う光景に立ち尽くしていると、自棄を起こしたように剣を振り回す男が突進して来る。
「くっ……!」
ガキンッと、重い剣を受け止めた刃が火花を散らす。
「お前らダンケルハイトのせいで……俺は……っ……ぶっ殺してやる!!」
「っ……私は、ダンケルハイトじゃありません!」
狂った状況のせいなのか、正気を失っているような男にセレスの声は届かない。
魔物だけでも厄介だと言うのに、余計な物まで敵に回ってしまうなど……。
「ぐあっ……っ!!」
一瞬でも余所事を考えてしまったせいか、男の剣を弾いた一秒にも満たない隙を突き、魔物の牙が肩口に食い込む。
激しい痛みだけではない目眩に反応が遅れ、セレスは振り回される勢いのまま大樹へと叩き付けられた。
「うっ……ぁ……」
ズルズルと崩れ落ち、出血の止まらない肩を押さえる力もない。
そのまま食い殺されなかったのは不幸中の幸いだが、塞がらない傷口は意識の方を蝕んでいくようだ。
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