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噎せ返るような血の匂いに、罪悪感を上回る強烈な餓えが全身へと広がっていくようだ。
狂笑を浮かべる男は、セレスを殺せばその後魔物の餌食になってもいいとさえ思っているのか、好機とばかりに剣を振り上げた。
全ての音が遠ざかっていくような感覚の中、セレスが剣の柄を握り直したその時……
ザシュッ!!と言う音だけがやけに鮮明に鼓膜を刺激した。
「え……?」
男の首が避け、一拍遅れて血飛沫が上がる。
噴水のように噴き出す赤を茫然と見上げていたセレスの前で、ぐらりと傾いた身体が切り離された頭部の上に倒れ伏す。
何が起こったのかも解らないセレスだけを置き去りに、動きを止めた魔物が全身の毛を逆立てるのが見えた。
【グル……ル……】
理性など欠片も見当たらない魔物だが、本能の部分で警戒しているようだ。
魔物の後方から、膨れ上がる闇を内包した足音が歩み寄る。
霞む視界のせいではなく景色が歪んだ瞬間、空を裂いた影が魔物の身体に絡み付く。
【――――!!】
全身を痙攣させた魔物は、雄叫びも悲鳴も……断末魔すら上げる事なく、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
(な……に……?)
自らが死した事さえも解っていないような魔物の姿に、セレスの背筋が凍り付く。
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