常闇の支配者

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上体を起こして無意識に辺りを見回せば、寂れた酒場の内装が目に入り、セレスは慌てて手を額に翳す。 どうやらいつの間にか、テーブルに突っ伏して転た寝をしてしまったらしい。 大柄な女将の迷惑そうな視線が突き刺さる。 「まったく……いくら暇な店だからって、ここは宿屋じゃないんですよ」 「す……すみません」 掌で目元に影を落としたままペコリと頭を下げると、女将は聞こえよがしに溜め息を吐いて肩を竦めた。 「もういいから、店仕舞いなんで出て下さい。お客さんも、日が暮れる前に今晩の宿を探した方がいいんじゃないですか?旅のヒトなんでしょ」 セレスの風体にそう判断した女将は、カウンターに椅子を乗せながら助言する。 「店仕舞いって……こんな時間にですか?」 おずおずと席を立ち、伏し目がちに財布を取り出したセレスは、何気無い疑問を口にした。 すると、女将は心底忌々しそうに顔を歪める。 「最近この辺にも、ファントムが現れるようになって……商売あがったりですよ。夕暮れになりゃ、誰も外を歩いちゃいないんでね」 「ファントムが……」 ファントムとは、近年増加の一途を辿っている異形だ。 死者の魂の成の果てであり、人肉を求めて徘徊する実体のない化け物。 日が沈む頃に活動が活性化され、エーネゲルスに住む住人を脅かしている。 「本当に軍は何をしているんだか……ダンケルハイト相手にいつまでも戦っていないで、民の安全を第一に考えて欲しいものですよ」
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