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突然セレスの前から消えてしまった【彼】を思う度、癒される事のない痛みが胸を襲う。
だがその時、セレスはふと後方から近付いて来る足音に首を巡らせた。
帝都から大きく外れているとは言え、シュトラールの領地には珍しい、一見してならず者と解るごろつきが二名、下卑た笑みで油断なく此方を窺っている。
「よう、随分いい物をぶら下げてんじゃねぇか」
「大人しく金目の物を差し出せば、命だけは見逃してやるよ」
欲にまみれた男達は、淡い髪をしていなければシュトラールと判断出来ない程に荒んだ目をして、セレスの腰に差した剣を見詰めていた。
酒場の女将の言っていた通り、夕暮れ時が近付いた町にヒト影はない。
帝都から外れているが故の、治安の悪さを物語っているようだった。
「……えっと、因みにお断りしたらどうなります?」
頬を引き攣らせて尋ねると、彼らは一瞬意外そうな顔をした。
「その声……お前、女か」
「おお、こりゃあいい。ついでに付き合って貰わなきゃ損ってもんだ」
ニヤリと、髭で覆われていようと感じ取れる不気味な笑みに、セレスは良く解らないまま首を傾げる。
「どこにですか?すみませんが私、先を急いでるんです」
「はっ……それで誤魔化せると思ってんのか?」
「おい、構わねぇから押さえちまえ!!」
素朴な疑問に何故か怒ったような顔をする男の横から、別の男の薄汚れた腕が伸びて来る。
「っ……わ……!!」
男の手がローブに掛かる寸前で、反射的に身を引いたセレスは、瞳の色を見られまいと地を蹴った。
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