武器‥

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「君の母親‥薫は‥ 大学の後輩だった。 同じサークルで‥ 私達はバンドを組んでいた。 彼女がボーカルで‥ 私はベース‥」 お母さんが‥バンドの ボーカルだったなんて‥ そんな事‥聞いた事が無い。 「彼女の歌は素晴らしく‥ みんなを魅了した。 私もその中の一人でね‥ しかし‥彼女には ある問題があった‥ 生まれつき体が弱い事‥ 彼女は‥両親に内緒で バンド活動をしていた。 彼女は‥それ程 歌う事が好きだった。 ある日‥ライブハウスに レコード会社の人が現れた。 彼女の歌を嗅ぎつけて‥ 私達はいよいよデビューかと そりゃぁ浮かれまくったよ。 しかし‥目をつけたのは 彼女の歌だけだった。 当時、私は既に 彼女と同棲をしていた。 彼女は‥私に言った。 “一人でデビューするつもりは無い。だから断った。”と‥ それから‥メンバーとも ギクシャクしだし‥ レコード会社のヤツも ここぞとばかりに 彼女を勧誘した‥ それでも彼女は 頑なに断り続けた。 だから‥私は彼女に言った。 “みんなに君の声を 届けるべきだ‥ 話を受けるべきだ。”と‥ 彼女が私に遠慮していると 思っていた。 みんなを踏み台にして のし上がる事がツライんだと 思っていた。 でも‥ そうじゃなかった‥ 彼女のお腹の中には‥ 君がいたんだよ‥」 私が‥お腹の中に‥ すごく不思議な気分だった。 その時代に‥ 私は既に生きていた事が‥ 二人の会話を‥ 母親のお腹の中で 聞いていた事が‥ 「私はまだ若く‥ 将来の夢や希望に溢れていた。彼女はそんな私に‥ 子供が出来たとは‥ 言えなかった。 ましてや‥彼女の体で出産は 命と引き換えで‥ 親に言ったら反対される。 当時の私も‥ 反対していたかも知れない。 だから彼女は私に‥ “話を受ける。”と言った。 そして‥“別れよう”と‥」 社長は‥声を詰まらせた‥ 当時の記憶が‥ 私にも見える様な気がして‥ 私はいつの間にか‥ 宇野さんの布団を 涙で濡らしてしまっていた‥ 私の知らない過去の話‥ でも‥確かに私は‥ そこに存在していた。 母親のお腹の中で‥ 生きていた。 私は布団から‥出た。 母親のお腹の中みたいな‥ 布団の中から‥
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