試練‥

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「ご主人ね‥ 始めはスゴイ剣幕でね‥ 私に怒鳴りつけたわ‥ “テメぇ医者だろ~っ!! 何とかしろよ~っ!!”って‥」 KIYOが‥ 言いそうな事だ。 凄腕の女医がいる産婦人科 と言っていたくらいだ‥ 女医と言うのは また違う理由なのだけれど‥ 「あの剣幕には参ったけど‥ 私が‥ “妊娠も出産も奇跡の塊だ” って言ったらね‥ “お腹の中に来てくれた事 お話した事、一緒に笑った事 全部奇跡だって解ってる。 だから‥頼むから 奇跡を奇跡で 終わらせるなよ‥ その続きを‥ 現実を生きてくれよ‥” って‥泣きながら言ったの。」 KIYOが‥ そんな事を‥ 私には‥ 涙ひとつ見せなかった。 「正直、参ったわ。 医者としてかける言葉は あったけど‥そんなもの 彼には何の役にも立たない。 彼には通用しない。 でも‥医者として 彼と向き合わなければ‥ と思った瞬間‥ ご主人は‥ 目を閉じて‥ 動かなくなったの。」 「ピーナッツちゃんの‥ 声が‥聞こえた‥」 「そう。でも‥ その時の私はそんな事 わからないから‥ 意識が無くなったかと 思ったわ‥」 そらそうだろう。 まさか‥ 私のお腹の中の子と 交信してるなんて‥ 誰も思わないだろう。 「ふと‥彼が言った事を 思い出したの‥ お話した事‥ 一緒に笑った事‥ 彼は今‥奇跡の続きの中に いるんだって‥思ったの。 きっと赤ちゃんが‥ 見るに見かねたのね‥」 先生は少し笑った。 でも‥そうかも知れない。 おっ母は気を失い。 おっ父はおっ母より スゴイ剣幕で 先生を怒鳴りつけ‥ 見るに見かねたんだ‥ 何やってんだよ‥って 「しばらくしたら‥ ご主人がつぶやいたの。 “充分‥生きたんだな‥?” って。そしたらね‥ ご主人が‥涙を流しながら 笑ったのよ‥ その笑顔は‥完全に パパの顔だったわ。 我が子を抱き締める パパの顔だった。」 充分‥生きたんだな‥? ピーナッツちゃんは‥ 何て答えたんだろ? KIYOが笑ったなら‥ 答えは‥ひとつしか無い。 “アイアイサぁ~♪” 私は‥ 涙が止まらなかった‥ でも先生は‥ 大丈夫?とは言わなかった。 ずっと‥ 微笑んでくれていた‥ それは‥ 今まで流した涙とは違うから‥ 悲しみの冷たい涙では無く‥ あったかい涙だったから‥
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