序章―夢か現か―

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 時は明治、徳川幕府が終焉を迎え幾年も経たぬ今、吉原の見世はどこも貧困としていた。  その中でも、吉原の片隅に遊廓の中でも特殊な部類に属する陰間茶屋、つまりは男娼館では何よりもその被害を受けていた。江戸の時は今よりも活気のあったその場所も大半が寂れ廃れ潰れて、随分と静かになり、誰もが餓えによりひもじい想いをしている。  そんな界隈で一際、賑やかで華美な場所があるとしたら、おそらく洋と和を織り混ぜた大見世【千日堂】だけであろう。  少々値が張るが、物珍しさと品質の良さもあり徳川家の者を含み村町の名代から僅かな貯金を片手にした男達と、未亡人となったそこそこ裕福な女達、そして異国から来た者達までがこぞって通う。それが千日堂と言う大見世だ。  見世の玄関には二つの入口が用意され、かたや絹の青い暖簾と木彫りの和千日堂とある表札があり、二つ目の入口にはビロードの赤い暖簾と洋千日堂と彫られた大理石の表札がかかっていた。  そう、ここは洋と和が均等に降り混ざる珍しい陰間茶屋なのだ。和に行けば美しい日本人の男達が、洋へ行けばこれまた美しい、異人の血が混じった日本人や異人の男達が出迎えてくれる。  それこそ、評判の女郎などには引けも劣らぬ男達ばかりが集った見世。そして今宵も、その華美な見世の提灯に明かりが灯るのであった。
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