序章―夢か現か―

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 青い暖簾を潜ってどちらかと言えば、高価ではあるが控えめな作りをした室内が見える。その見世の二階には、男娼達の部屋が用意されており、位の低い男娼達は雑魚寝部屋を位の高い花魁達は個室を宛がわれていた。  その中ににの際奥には、とても広い部屋がある。置いてある箪笥や鏡台等の調度品はとても高価なもので、豪華絢爛と言う言葉がまさに合う様な部屋であった。  その部屋の持ち主は、洋千日堂の一番人気花魁よりも倍稼いでいると言われる和千日堂の一番人気花魁、翠蘭(すいらん)。  齢二十五歳、遊廓の世界では若さが望まれる事から、普通ならば人気も落ちる頃、しかし翠蘭の人気は衰えないどころか一つ歳を重ねるごとに人気が高まって行く。  そんな翠蘭には嫉妬と羨望どちらの気持ちも入り交じったあだ名があった。黒揚羽、それが彼のあだ名である。  彼につけば最後、散財するまで逃れることは出来ないという噂から出来たあだ名だ。  和千日堂の高値の花であり、何よりも影響力の強い彼、それが翠蘭である。  長く美しい黒髪に陶器の様に滑らかな白い肌は彼が好む赤色の着物をよく映えさせる。  そんな憧れの象徴である翠蘭が始めて面倒を見た禿は今や翠蘭に次ぐ人気花魁となっていた。  おしとやかで少々近づき難い翠蘭とは対称的に自然と惹き付けられてしまう様な、笑顔と元気の似合う彼の名は、緋頼(ひより)。  かれもまた嫉妬と羨望どちらの気持ちも入り交じったあだ名がある。その屈託のない笑顔と裏腹にとても計算高い様子から彼は蜉蝣と呼ばれていた。美しく見える蜉蝣、それでも蜉蝣は砂に隠れ獲物を静かに待つ蟻地獄が成長しただけに過ぎない、といった意味でだ。
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