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この、大見世にいる誰もが憧れる翠蘭。黒揚羽の異名を持つ彼は、洋千日堂の一番人気である自分と同じ和千日堂の一番人気だというのにその稼ぎは二倍も違う。黒檀のような艶のある髪、日本人とは思えないほどの、まるで雪の様に白い肌は陶器と似た手触りで、妖艶に歪むその唇は林檎にも劣らぬ赤さ。
この世のものとは思えないほどの美しさはまさに神々しい。そんな彼と並ぶなど決して叶わぬ夢であろう。
「あーあ、俺も姐さんみたいになりてーな」と、砕けたように緋瀬が呟く。
「なりてーな、じゃないだろ」
「いいの、客取る時は郭言葉使ってるから」
そんなことを言いながら、緋瀬は桶の水を被って浴槽に浸かる。その仕草は若干荒々しく、つい笑みが零れてしまった。
「はぁー気持ちいい」
「湯冷めしない様にね」
「エリーは?」
入らないのか? と緋瀬が首を傾げる。
「いや、俺は良いよ」
「ふーん」
そっと立ち上がって他の男娼達と紛れて部屋へと向かう。夕刻も深まりそろそろ見世が開く頃だ。
「翠蘭……」
そっと呟いて、エリーは自分の部屋へと戻った。
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