一章 変革の狼煙

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――ラクヘレス聖都パレス近郊、《命の森》東側 新月の晩。 《要塞攻略基地》とは名ばかりの、大型馬車の中で一人の男が剣を研いでいた。 すぐ側には、不気味な巨犬が伏せている。 ふと、巨犬が頭を持ち上げて扉の方を向いた。 程なくして扉が開き、部下が入って来る。 「隊長!!」 彼を呼ぶの声に、男も顔を上げた。 「どうした?」 「子供が一人、パレスを出て行きました。我々の陣とは逆の方角に向かったようです。」 部下の報告に男は眉を潜めた。 しばしの沈黙の後、再び口を開く。 「…作戦まで時間が無い、障害にならないようなら捨て置け。」 「はっ!!」 扉の閉まる音を聴きながら男…ムトは、研ぎ終わった剣を鞘に納めた。 (子供、か…) 部下の報告にあった子供。 この国の人間である以上、残酷な運命を辿る事になるだろう。 顔も知らない子供の境遇に、自身の過去が重なった。 故郷を、家族を、変わらないと信じていた日常を奪われた時、彼はどうなるのだろうか。 絶望に殺されるか、あるいは自分の様に、復讐の為に戦場へ身を投じるのか。 (運命は、つくづく残酷だ。) ほくそ笑んで呟く。 応えるかのように、篝火が小さく揺れた。
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