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ー♪
何も私とて、手ぶらで彼女と打ち解けられようとは思ってはいない。
私が彼女に差し出す対価は、「これ」だ。
ー♪
次はここでブレス、残りを一気に歌いきる。
口先で小さく息を吸って。一気に。
少々肺が絞られそうな気がするが、作曲者の意図に背くブレスなどという冒涜を犯す訳にはいくまい。
ーおひめさまに、なりたいな♪
体感した限り、このフレーズは20秒ほどブレスが入っていない。
元々のテンポの遅さもあるが、この歌は絶妙な位置にブレスを置いてある。
仮令、呼吸が苦しかろうと歌詞を途中で切るのはナンセンスだ。
この少女、子供ながらなかなかに曲の味を引き出していて面白い。
とと、評価するのは失礼だったかも。
「ごめんね、借りちゃった」
さて、人様の曲を踏み荒らす無礼だ。
下手を打てば、侮蔑か激昂の眼差しを向けられるかと思ったが。
「あ、あなたは……?」
少女は唖然としたまま、ただ立ち尽くしていた。
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