hanker;035

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  ダメ!絶対ダメ!! 反射的に立ち上がり、三輪先生の背後から手を回して、口元を覆った。 もう片方の手で、安住先生の額をグッと抑える。 ―ガシャ…ン……! 僕の座っていた椅子の倒れる衝撃音と共に、安住先生と僕の視線は強く交錯していた。 『明里ちゃんは、…俺の気持ちとか考えた事は無いの?』 それってつまり、 そう云う事なんでしょう? 「……………。」 "三輪先生は、僕の彼女です。" 「………ッ…。」 クソ。 何でこの一言が云えないんだ。 ―ガシッ 互いに目を逸らさない侭、安住先生が額を抑えていた僕の手首を掴む。 静かに、…だけど、凄く強い力。 一瞬でも気を緩めたら、「痛い」って言葉が零れ落ちてしまいそうで。 何も云わず、その状況にじっと耐えていると、やがて安住先生の手の力がフッと抜けた。 「……まぁ、良いや。今日の所は」 僕の手を払い退けると、それだけ独り言の様に呟いて席を立つ。 …………ん? 『今日 ノ 所 ハ』?? 「じゃあね~吉成、良いお年をー。」 「えっ?」 気が付くと、廊下に出て振り向いたその表情は、すっかりいつもの"先生"に戻っていた。 「…はい、安住先生も……。」 呆気に取られながらも頷く僕に、安住先生は答える様に軽く右手を挙げて見せると、ゆっくり扉を閉めて行ってしまった。 「「………。」」 ―…ハァー~~~…。 何、この脱力感。 「!?……吉成君?大丈夫?」 張り詰めていた緊張が解けて、後ろから包み込む様に先生に凭れ掛かった。 頬に顔を寄せる僕の髪を、三輪先生が優しく撫でてくれる。 あぁ…なんか……落ち着く……。 瞼を閉じると、その手の優しさが安らぎを感じさせた。 だけど。 不意に、撫でるその手が離れた。 「……?、三輪先生?」 少し身体を離して先生を覗き込んで見たけど、先生は扉の方を向いた侭、動かない。 先刻、安住先生が出て行った、扉。 「………。」 多分、今、 先生が考えているのは僕の事じゃない。  
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