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ダメ!絶対ダメ!!
反射的に立ち上がり、三輪先生の背後から手を回して、口元を覆った。
もう片方の手で、安住先生の額をグッと抑える。
―ガシャ…ン……!
僕の座っていた椅子の倒れる衝撃音と共に、安住先生と僕の視線は強く交錯していた。
『明里ちゃんは、…俺の気持ちとか考えた事は無いの?』
それってつまり、
そう云う事なんでしょう?
「……………。」
"三輪先生は、僕の彼女です。"
「………ッ…。」
クソ。
何でこの一言が云えないんだ。
―ガシッ
互いに目を逸らさない侭、安住先生が額を抑えていた僕の手首を掴む。
静かに、…だけど、凄く強い力。
一瞬でも気を緩めたら、「痛い」って言葉が零れ落ちてしまいそうで。
何も云わず、その状況にじっと耐えていると、やがて安住先生の手の力がフッと抜けた。
「……まぁ、良いや。今日の所は」
僕の手を払い退けると、それだけ独り言の様に呟いて席を立つ。
…………ん?
『今日 ノ 所 ハ』??
「じゃあね~吉成、良いお年をー。」
「えっ?」
気が付くと、廊下に出て振り向いたその表情は、すっかりいつもの"先生"に戻っていた。
「…はい、安住先生も……。」
呆気に取られながらも頷く僕に、安住先生は答える様に軽く右手を挙げて見せると、ゆっくり扉を閉めて行ってしまった。
「「………。」」
―…ハァー~~~…。
何、この脱力感。
「!?……吉成君?大丈夫?」
張り詰めていた緊張が解けて、後ろから包み込む様に先生に凭れ掛かった。
頬に顔を寄せる僕の髪を、三輪先生が優しく撫でてくれる。
あぁ…なんか……落ち着く……。
瞼を閉じると、その手の優しさが安らぎを感じさせた。
だけど。
不意に、撫でるその手が離れた。
「……?、三輪先生?」
少し身体を離して先生を覗き込んで見たけど、先生は扉の方を向いた侭、動かない。
先刻、安住先生が出て行った、扉。
「………。」
多分、今、
先生が考えているのは僕の事じゃない。
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