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―ウィ……ン…
扉を開くボタンに触れた瞬間に、エレベーターが勝手に下へ下り始める。
「げッ!?」
ちょっと待った!!
咄嗟に"開く"のボタンをカチカチ連打したけど、完全スルーでエントランスに戻ってしまった。
あー…、誰かが呼び出したんだな。
仕方ない、一度降りて…
―ガー……
「あれっ?慶?」
「へ?」
顔を上げると、再び開かれた扉の前に、真奈が立っていた。
「こんな時間にどうしたの?…あ、自販機行く所?」
「…ううん、降りそびれただけ」
「は?何それ~、ウケる」
呆れた様に笑いながら真奈が乗り込んで来て、自分の家と僕の家の階のボタンを押した。
「………。」
…そう云えば、こうやって真奈と話すのは久々かも。
真奈は学園祭の終わり頃から塾に通い始めたらしくて。
僕等の家に顔を出す時間は、少しずつ減って来ていた。
…まぁ、今日は単に友達と遊んだ帰りなんだろうけど。
「…慶?何かあったの?」
「んー?なんで?」
「いつも以上にボーっとしてるから」
「…………。」
う。
僕、普段そんなにボーっとしてる?
無言で真奈と顔を見合わせたけど、返す気力も無かった。
―ガー………
やがて真奈の家の階に着いたけど、真奈は僕と顔を見合わせた侭、降りようとしない。
「真奈?降りないの?」
真奈の背後へ視線を移すと、その扉は閉まってしまった。
「路線変更。」
「は?」
呆気に取られる僕を余所に、真奈はニッと笑って、エレベーターの最上階のボタンを押した。
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