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膝の上でギュッと拳を握り締める僕とは対照的に、安住先生が困った様に笑う。
「……僕はまだ子供だし、安住先生みたいな包容力も守る力も持ってないけど」
「うん?」
視界の隅で、煙草を吸いながら相槌を打つ先生が映っていた。
中々的を射ない…もどかしい言葉さえ、こうやって聞こうとしてくれる所は、やっぱり先生だなぁ…なんて思う。
だけど今は
教師と生徒じゃなくて、
男と男の話をしに来てるんだ。
そう、決意を新たに顔を上げて、キッパリと安住先生に断言した。
「それでも、三輪先生への気持ちなら僕は誰にも負けていないと思っています。」
「………。」
緊張の所為なのか、手元の拳が震え始める。
「三輪先生は、誰にも渡しません。」
「…………。」
眉間に皺を寄せて真っ直ぐに見据える僕に、見ているだけで凍りつきそうな位の相当な鋭い視線が注がれた。
長い、長い沈黙が流れる。
反応を待つ僕を余所に、安住先生は一言も話そうとしない。
遠く流れゆく雲をぼんやり眺め、足を組み、煙草の火を消す…。
あれ?
もしかして僕、シカトされてます?
沈黙が続けば続く程、不安で一杯になってしまう。
何なんだ、この緊張感は。
「……………吉成。」
「えっ?はい。」
急に声を掛けられて、慌てて先生に向き直る。
安住先生は真っ直ぐ前を向いた侭、目を瞑り険しい表情で、大袈裟な位に重い溜息を吐いて呟いた。
「サムい。」
「………。……ぇ?」
さっ、寒い?
それは真冬の空の下だからではなくて?
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