hanker;037

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  暫くその侭でいると、腕の中で先生が小さく震え始めた。 泣いてる?……感じとは、少し違うみたいだけど。 「?、明里?」 少し身体を離して、顔を覗き込んでみる。 「……ふふ。やっと名前で呼んでくれたなぁって思って」 「…あ。」 そう云えば…テンション上がった所為か、夢中になり過ぎて躊躇いも何も忘れてたな。 どうやらずっと笑いを堪えていたらしく、彼女が僕の顔を見るなり嬉しそうに笑った。 少し照れた様なその表情に、思わずつられてしまったのが自分でもよく判る。 僕、こんな風に 心から幸せを感じて笑った事、 今まであったかな? 明里が僕の身体に顔を埋める様に寄り添いながら、ポツリと呟いた。 「私も"慶"って呼んで良い?」 「…うん。」 コツンと頭に頭を当てて返す。 拍子に、背中に回された腕に力一杯抱き締められた。 もしかして、僕が自分から名前で呼ぶの、待ってたのかな。 バカだな、僕。 もっと早く呼んであげれば良かった。 二人並んで、壁際の段差に座る。 脇に置かれたスケッチブックには、この周辺の草木が描写されていた。 「僕、今、安住先生と話して来たよ。」 「…先生なんか云ってた?」 「ん。『お前等そっくり』って、呆れてた」 「えぇ?」 …あ。でも、 『だからって俺が三輪先生を諦めるかどうかはまた別の話』 とも、云われたんだった。 うぅ。 思い出すだけで、眉間に皺が寄ってしまう。 ―クイッ 「…う?」 不意に横から手が伸びて来たと思ったら、眉間の皺を指で伸ばされていた。 手を置かれた侭で顔を向けると、明里は首を傾げて僕を覗き込みながら笑っている。 「…僕って、昭和のメロドラマっぽい?」 「は??」  
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