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* * *
夕暮れのオレンジ色の光に照らされながら、自転車を押して駅へと続く坂を下る。
「慶ぃー…、機嫌直してー?」
「……ん。」
僕の少し後ろを歩きながら、明里が窺う様に遠慮がちに声を掛ける。
別に怒っている訳では無い。
どちらかと云えば、ヘコんでる?…かな。
あの後、"三輪先生"の仕事が終わるまで待って、一緒に帰る事にしたんだけど。
先生達も、年末年始は休みだって云うから
「じゃあ一緒に初詣行けるね」
なんて浮かれていたら
「あ、ごめん。私フランス行くから無理。」
と、アッサリ断られてしまった。
僕と付き合う前に、既に決めてしまっていたと云うから仕方ないけど。
ついでに云うと明里は旅行が好きらしく、まとまった休みが出来ると一人でフラッと旅に出てしまうらしい。
そう云われてみると、夏休み明けにお土産を分けて貰った気もする……。
………。
こんな事でヘコむなんて、我ながら子供っぽいとは、思う。
「…本当にごめんね?」
自転車を押す腕を遠慮がちに掴んで、明里が申し訳なさそうに何度も繰り返していた。
「………。」
なんだか明里まで元気がなくなったみたいだ。
嬉しい気持ちだけじゃなくて、
寂しい気持ちも、伝染するんだな。
ピタッと足を止めると、明里が丁度隣に並んだ。
「慶…?」
視界の端で、明里が不安そうに僕を見ているのが判る。
「……今度は、配った余りじゃなくて」
「え?」
「僕にもお土産買って来てくれる?」
「………??」
振り向いてニッと笑い掛けてみたけど、明里は思い出せないのか、呆気に取られた顔で微妙な作り笑いを浮かべていた。
「……。マカロン。夏休み明けにくれたでしょ?」
「!!、あぁ!」
ハハ。
やっぱり忘れてたっぽいな。
急にエンジンが掛かったかの様に満面の笑みを湛え、明里が空いている手でピースサインをくれた。
「勿論!いっぱい買って来る!!」
「否、一個で良いんだけど…」
「そ?じゃあ一個にしとく」
「………ぇー…?」
それもどうなの?
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