hanker;037

4/6
前へ
/248ページ
次へ
   * * * 夕暮れのオレンジ色の光に照らされながら、自転車を押して駅へと続く坂を下る。 「慶ぃー…、機嫌直してー?」 「……ん。」 僕の少し後ろを歩きながら、明里が窺う様に遠慮がちに声を掛ける。 別に怒っている訳では無い。 どちらかと云えば、ヘコんでる?…かな。 あの後、"三輪先生"の仕事が終わるまで待って、一緒に帰る事にしたんだけど。 先生達も、年末年始は休みだって云うから 「じゃあ一緒に初詣行けるね」 なんて浮かれていたら 「あ、ごめん。私フランス行くから無理。」 と、アッサリ断られてしまった。 僕と付き合う前に、既に決めてしまっていたと云うから仕方ないけど。 ついでに云うと明里は旅行が好きらしく、まとまった休みが出来ると一人でフラッと旅に出てしまうらしい。 そう云われてみると、夏休み明けにお土産を分けて貰った気もする……。 ………。 こんな事でヘコむなんて、我ながら子供っぽいとは、思う。 「…本当にごめんね?」 自転車を押す腕を遠慮がちに掴んで、明里が申し訳なさそうに何度も繰り返していた。 「………。」 なんだか明里まで元気がなくなったみたいだ。 嬉しい気持ちだけじゃなくて、 寂しい気持ちも、伝染するんだな。 ピタッと足を止めると、明里が丁度隣に並んだ。 「慶…?」 視界の端で、明里が不安そうに僕を見ているのが判る。 「……今度は、配った余りじゃなくて」 「え?」 「僕にもお土産買って来てくれる?」 「………??」 振り向いてニッと笑い掛けてみたけど、明里は思い出せないのか、呆気に取られた顔で微妙な作り笑いを浮かべていた。 「……。マカロン。夏休み明けにくれたでしょ?」 「!!、あぁ!」 ハハ。 やっぱり忘れてたっぽいな。 急にエンジンが掛かったかの様に満面の笑みを湛え、明里が空いている手でピースサインをくれた。 「勿論!いっぱい買って来る!!」 「否、一個で良いんだけど…」 「そ?じゃあ一個にしとく」 「………ぇー…?」 それもどうなの?  
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加