イチロー 2011 冬

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(思ったより短いよ!! だいぶ短いよ!!) ウイイイイイイイイイイン! 唸るバリカン。落ち行く髪の毛。 …悶絶するトニ男。 ザビエルが無言のまま手鏡を持ち、後頭部の哀れな刈り上げをこれ見よがしにトニ男に見せた。 見事なまでの、 これじゃない感。 イチローじゃない。 スポーツ刈でもない。 微かな頭頂部の角張り。 そう、 これは、 高倉健カット。 (高倉健カットなっとるうう!?) 「これでいい?」 (これでいい? ってザビエル! 他にどうすんだよ?! 伸ばせるもんなら伸ばしてみろよ!) 「シャンプーする?」 「あ、はい…」 トニ男はもう諦めました。 メジャーリーグから、南極物語へ方向転換です。 だが、 ザビエルのシャンプーには他の店員には無い、スペシャルコースが存在したのです! しっかりと指の腹で洗ってくれるザビエル。 (そうそう、頭皮は繊細だからね。爪立ててやると傷付くから、うん) 一度洗い流し、メンソールタイプで二度洗い。 ここからがザビエルスペシャルコースだった! 何かを取り出す音が聞こえた。 ※昔ながらの前かがみで洗髪なので見えない。 ザビエルが取り出したアイテム。 それは、 ヘアーウォッシュブラシ。 右手に装着したザビエルはそれをトニ男の頭に当てる。 (ん? この感触は…まさか) そして次の瞬間!! ガリガリガリガリガリガリガリガリ!!!!!!!!!!!!!!!! (なああああ!!!? 死ぬううう!!! 頭皮が死ぬううう!!) ザビエルがトニ男の頭頂部を円を描くように擦る! 擦る! 擦る! (やめんかあああ!!!! お前が禿散らかしてんのはこれのせいじゃあああ!!!) 店を出た後の下り坂は人通りが無く、“門前雀羅”を張ったように閑散としていた。 そんな寂しい坂道を通り過ぎる風。 トニ男には妙に涼しく感じた。 何故なら、 トニ男は、 高倉健 な上に、 頭頂部がジンジンと… ザビっていたからだ。 完
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