プロローグ

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 そこは地上の光が一切差し込まない魔境。蟻の巣のように通路と部屋が張り巡らされ、闇と静寂のみが支配する地下迷宮に、一人の青年の足音が響く。 「チッ、ここも『ハズレ』か?」  闇で塗りつぶされた部屋の一つに、松明を持った青年が踏み入り、荒らされた室内を見て思わず悪態をつく。  青年は流れの冒険者で、遺跡の探索と、それによって発生する利益で生活していた。今潜っている遺跡は、街に居た情報屋から買い取った情報で見つけた遺跡である。  予想はしていたが、人の手が入っていた。王都ほどの大きさを持つ街の情報屋でも知っている位だ、この街に来た冒険者は全員探索を終えているのかもしれない。  何が言いたいのかというと、『前人未踏の遺跡』なんてガセネタを掴まされたのだ。 「……はぁ」  気落ちしながらも、部屋を後にして探索を続ける。取りこぼしが手に入る時もあるし、最悪ツキの無かった同業者から金品を失敬すれば小銭くらいは稼げる。  金が無ければ流れの冒険者は生きていけないのだ。  別の部屋に入り、壁に光が届かないことから、広い部屋に入ったのだと悟った。ここで動き回るのは得策ではない。壁に手を当てて部屋の形に添うように進んでいき、途中掛けられていたランプに持っていた松明で火を入れて回ったことで、部屋の殆どが照らされる。  青年が入った部屋は食堂のようで、並べられた机と、奥まった場所にある錆びてボロボロになった調理器具がその証左だ。 (これじゃあ持ち帰っても、屑鉄以下の値段で買い叩かれるな)  軽く指先で触れただけで跡形もなく崩壊した元フライパンを見て、深いため息をつく。  移動しようと立ち上がった青年の顔が、明かりに照らされて露わになる。  少年のような幼さの残る顔には、まだ見ぬ遺跡の奥への好奇心に満ちている、遺跡の闇と対照的な白い肌、瞳は青く光を湛え、口元には不敵な笑みが浮かんでいる。頭髪はそこまで気が回らなかったのか、伸び放題の金髪は土埃などで汚れていて、無理やりオールバックにし、後ろの方はポニーテールのように一括りにすることで、視界を妨げないようになっている。  今はかけていないが、外との急激な光量の変化等に対応するために薄い黒色が入ったサングラスは、コートの胸ポケットの辺りに入っている。
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