プロローグ

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 青年は気を取り直して丸い何か――石に再び注目する。直径三センチほどの丸い石は、指先で触れただけで窪みから取れてしまった。慌てて受け止め、地面に落ちて粉々という事態は回避したものの、この石に価値はあるのだろうかと思案する。  淡く光っていて綺麗ではあるが、それだけだ。付加価値は見いだせない。しかし小遣い程度にはなるだろうと石をコートのポケットに滑り込ませた直後、モンスターの咆哮が背後から聞こえた。 「しまっ……!」  青年はとっさに振り返るが時すでに遅し、明確な種類は特定出来ないが、四足獣タイプのモンスターが今まさに飛びかかってきているところだった。  回避は不可能と判断し、咄嗟に両手をクロスさせて前面に出し、防御に出る。  襲いくるであろう痛みを覚悟し、目を瞑る。しかし、聞こえてきたのは突進を何かに弾かれたモンスターの、悲鳴にも似た短い鳴き声だった。  不思議に思い目を開けると、なんと青年の眼前には金属製の丸型盾が浮いており、モンスターからの攻撃を阻んだのである。 (良く分からんが、これは好機!)  腰の剣は刃こぼれしたので今は使えない。反撃のため、宙に浮く盾を両手で持つ。両手で持った途端に盾は浮力を失い、ずっしりとした重さを感じる。縦横共に三十センチほどある鈍色の丸型盾には裏側に持ち手がついており、本来片手で扱う物なのだろう。  しかし今回この盾は鈍器として扱う。盾の両端を持った青年は、起き上がって態勢を立て直そうとしたモンスターを撲殺した。 (倒した……けど、何でいきなり盾が――って、コレしか無いよな?)  荒い息をつきながらポケットから小さく丸い石を取り出してみると、それはさっきまでと違い、緑色の輝きを放っていた。青年はまるで魅入られたかのように眺めていたが、やがてはっと我に返り、石の特殊な効果を確認し始めた。  ……数時間後、粗方やりつくした青年は肩で息をしていた。緑色の石は、使う度に青年の体力を奪っていくようだ。  だが、青年が石の力に慣れていくにつれて、体力の消費は目に見えて少なくなっていき、今では自分の手足のように扱える。  青年が手にした石の力は、何もない所から金属を生み出し、操るというものだった。だが、自身から離れすぎると操れなくなり、空気中に溶けるように消えていった。青年は思いがけず手に入れた力に満足し、遺跡を後にした。
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