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「いいよ。わかんなくて」
「……う、うん?」
「意識、してないなら、これからして?」
『意識しろ』とか『意識しな』みたいな上からじゃない。
『して?』ってお願いする言い方と今日何度目かの笑顔。
だから、色々ずるい。
普段はそんな風に言わないじゃない。しかもそんな言い方が、ちょっと可愛いって思う自分が悔しい。
「……だ、だめ」
目の前のまぶしい笑顔が崩れた。少し下がった目尻にアンバランスに上がった眉。
その眉が、綾乃の言葉に器用に片方だけ上がる。
「だめ?どうして?」
だめというより無理だ。
だって、これ以上意識したらあたし死んじゃう。
ふせいみゃく?
……わかんないけど、ドキドキしすぎて心臓持たないよ。
だけど『意識してない』って強がり言った手前、本当は超意識しまくってます、なんて言えない。
言いたくない。
「理由なんてない。
ダメなものはダメ」
「そんなに顔、真っ赤なのに?」
「す、っぴんだから……赤いし……」
「……すっぴんは……関係ねえだろ?」
自分でも訳のわからないこじつけの言い訳してる自覚はある。
だけど、いきなり素直になれなんて、しかもこんな色々されてる状況では綾乃にはハードルが高かった。
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