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「うるさいな。すっぴん関係あるの!!あるったらあるの!!
もういいでしょう?さっきから言ってるけど離れてよ」
赤い顔を誤魔化す上手な言葉が浮かばなくて、半ば強引に押しきりながら、綾乃は今日何度目かの『離れて』を告げる。
もう近いのダメ。
顔赤いのだってこの距離でやり取りするからだもの。皇がこんなに近いと、恥ずかしくて照れくさくて乱される。乱されるんだよ。
何を言われても頭働かないの。
だから離れて欲しい。
「ねえ、離れてよ」
「オタオタしてるオマエ面白いからヤだ」
「ーー!!ばっかじゃないの!?だいたいあたしは全然おもし、ろ……く」
あれ?
怒る綾乃はふと、皇の耳元に視線を向けながら真面目な表情で黙りこむ。
その表情の変化に気がついた皇も真面目な顔になって、綾乃に問いかけた。
「なに?」
何……って。
耳。耳元に違和感。
「……ね?ピアス。
……ピアスは?」
確かさっき至近距離で見た時は、ちゃんとあった。瞳と同じ色のガーネット。
ーーさっき……って、最後に見たのはいつだったかな?ーーと、記憶をたどれば、ピアスとは無関係な『見て』と言われた耳元の低い囁きと、目の前でゆっくりと瞬きする皇が、余りの印象の強さに、思い出したい記憶を押し退けて鮮明によみがえてきた。
瞬きを繰り返しながら、唇をゆっくりと柔らかに噛む動作と、動作の合間に時々感じる舌先の甘い感触ーー。
「ーーっや、まっ、待って!!それはちがくて!!」
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