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思い出したいのはソレじゃない。むしろそんな記憶は一生封印したい。
「は?“ちがくて”?」
「“違 っ て”……って、どうでもいいし!」
「……いいけど。
なんでそんなに挙動不審なの?」
「不審じゃないよ?
これがふつう、普通だから」
「普通?それが?
明らかにさっきより顔あか」
「くないっ!!
赤いのはすっぴんのせい!!」
「はあ!?またわけのわかん……」
「もしくは皇の目がオカシイんだよ!!」
不埒で生々しい記憶を削除しようとあわてふためいた綾乃は、あわてていることに気づかれて、さらに動揺している。
「……オマエ、どうせまた変な妄想してたんだろう?」
「変な……って、そんなことしてないもん!!」
嘘だけど。
『その通りです』なんて言えるわけない。
しかも、
「“また”って“また”ってどういうこと!?そんなに頻繁に妄想してるわけじゃないわよ」
「はは、してるだろ?
だって綾乃チャン、イヤラシイし」
「死ねばいいのに」
「くはっ……死ねばって……。
……ピアス?」
こらえきれないように、吹き出した皇が、ふと、なにかに気づいた様子で指先を首もとに伸してきた。
先ほど触れられた時のくすぐったいようなゾワゾワするような落ち着かない感覚がよみがえって、反射的に綾乃はまたぴくりと微かに身じろぐ。
肌に触れるか触れないかの距離で指先が動いて、神経全部がそこに持っていかれるみたいにピリピリした。
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