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風の槍は渦をまきながら離れた位置にいた戦車を襲った。一点に集中された魔法は、戦車のサイドスカートに直撃し、サイドスカートを貫通し、履帯を吹き飛ばした。
――当たらんな…一撃で決めるつもりだったんだが…
団長は舌打ちをしながら杖を下ろした。
団長が杖を使ったことを差し引いても、世界基準としてのこの攻撃の命中率と威力は、帝国の周辺諸国を驚愕させるものだった。
しかし、その魔法でさえ最新の複合装甲を破りきることはできなかった。
遠目に見るとダメージが無い(ように見える)戦車を見て、団長は唖然とした。隣で副官が呻く。
「あれは…化け物か…?」
その時、敵の戦象の鼻先がこちらを向き始めた。団長の額に冷や汗が浮かぶ。味方を一撃で粉砕した攻撃が来る。そう考えた瞬間、団長は馬首を返した。自身の副官に焦って呼びかける。
「おい、逃げるぞ!」
「は…?う、うわっ!」
我にかえった副官も戦車の砲口がこちらを向こうとしているのに気付き、焦って馬を蹴る。
2人が必死に丘を下り始めた時、先程まで団長達がいた丘の地面を、戦車砲弾が吹き飛ばし、衝撃波を食らって驚いた馬から振り落とされ、団長達は悲鳴をあげながら丘を転げ落ちていった。鎧の角が土を抉る。
「うおぉぉ!?」
「わあぁぁぁぁぁ!」
やがて坂がなだらかになっている所で副官と折り重なるようにして停止した。団長達のそばを馬が転がり落ちてゆく。あの馬はもうダメだと団長は確信した。徒歩で退却するしかない。
団長は全身の痛みを堪えながら、ぼそりと呟いた。
「…帝国史上…一番ひどい負け方をしたかも知れん…おい、いつまで転がってる!?生き残りをまとめて撤退だ!」
帝国軍とアストラニア軍の戦闘は、約2時間で、アストラニアの圧勝で終わった。
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