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目を開くと、蛍光灯がまず視界に入った。目だけで周囲を確認すると、素っ気ないスチールの机に、テレビと、購買で買った雑誌の散乱する床。
そこはアルハン基地にある士官隊舎の自室のようだった。クロムは起きあがると、周囲を見回す。
――何も、音がしない。
車のエンジン音も、話し声もしない。完全な無音だった。見知った所に居るはずなのに、激しい違和感があった。
「そうだ、俺は異世界に居たんだ…」
下を向いて、確認するように出した声は壁に吸い込まれ、消えた。
――リーナやルルゥはどこだろうか…
そうクロムが考えた時、部屋のドアが開いた。クロムは顔を上げる。そこには、血まみれの兵士が立っていた。
「……!?」
血にまみれた服装に見覚えがない。少なくとも、アストラニアの兵士の装備では無かった。
――待て
顔に見覚えがある
――思い出してはいけない…
自分がまだ完全な新兵だった頃
――だめだ…
「俺が…初めて殺した人間…」
その考えに行き着いた時、クロムの脳裏はあの時の記憶にたどり着いた。
数年前に派遣された内戦地。新兵だった自分は初めての実戦に浮き足立っていた。そんな時にこの兵士は、クロムに近接戦を挑んできた。もみ合いの末、クロムが彼の心臓に何度もナイフを振り下ろし、クロムが生き残った。
ふと自身の手を見ると、やや大ぶりのコンバットナイフを握りしめている。
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