第9章》ユグドラシル

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「一応距離をとらせて部下に追跡させています。報告では、危害らしきものは加えていないようです」 「面倒なことになったなぁ…」  クロムはそうぼやきながら車両の周囲に広がる景色を眺める。その時、クロムの視界に、違和感のあるものが飛び込んできた。  前方の運転席に座る運転手のハンドルを握る手が、やけにほっそりしている。動きもなんだかカクカクとしている気がする。  ドロイド兵だった。運転なんて細かい作業の出来ない筈のドロイドが、車の運転をしている。クロムは反射的に悲鳴をあげた。 「お、おい、ドロイド兵に運転させるな!事故らせたいのか!?」 「交代要員が居ませんが」 「お前がいるだろう!?」 「私も運転はできますが、少尉の発言から推察するに、私が運転するのも問題ありかと」 「はい?ドロイド兵は運転すんなって言ったんだぞ?」 「だからです」  そこでシグマは、何事もないように、こうのたまった。 「私はドロイドですから」 「は」  暫くの沈黙。偵察車の走行音が響いた。暫くの後、クロムは恐る恐る口を開く。 「あ…頭打った?」 「私は正常です少尉」 「誰でもそう言うよ」  これは困った事になったと内心で頭を抱えるクロム。その時、ガシャンという音と共に、車両が急停止した。 「うっ!?」  勢い余って運転席の背もたれに頭を強打しそうになったクロムは、シグマに抱きすくめられて事なきを得た。
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