第1章》カルヴァン

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カルヴァン城  夜の空が赤く照らされる。城下が燃える炎の光である。城下町は今や地獄の様相を呈していた。  略奪、暴行が横行し、抵抗するものは殺され、投降したものは奴隷になった。そこに倫理は無かった。そこには、黒い欲望と恐怖だけがあった。  ヒイロエン帝国の兵は、巨大な龍に抱えられた箱に乗り込み、突如、宣戦布告も無しにまず最初に王都だけに襲撃を敢行した。その戦法は我々の世界でいうヘリボーンに近かった。龍はおろか、小型の竜さえ持たないカルヴァンは何もできないまま、いともたやすく王都への侵入を許してしまった。  帝国はミドガルド大陸の大半を掌握している覇権国家だ。それに攻め込まれた南方の隅にある小国は、波打ち際にある砂の城のようなものだ。 「金目の物はすべて奪い取れ!」 「できるだけ住民は殺すな!捕獲するのだ!」  そんな叫びが風に乗って流れてくる。同時に、爆発音や絹を裂くような女の悲鳴が聞こえてきた。  カルヴァン公国は、極めて穏やかな国で、治世は安定していた。しかし、帝国の侵略の波にさらされ、カルヴァン公国を治める王城も侵略者の猛攻に陥落しようとしていた。
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