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数時間後、カルヴァン城から離れた、周辺を見渡せるなだらかな丘から人影は騎士達と共に、赤く燃える城下町をみつめていた。逃げる為にドレスの上から急いで着用した革鎧にマントを羽織り、ローブで隠した顔は、炎の光が照り返し赤く染まっている。
フードに隠れて見えないが、美しく長い銀髪に、緑色の瞳。優しげな顔立ちは育ちの良さを物語っていた。その顔は今、悲しみと憎しみの感情に歪んでいる。カルヴァン公国王女、リーナ・カルヴァンだ。
「……お父様…」
震える声で、王女は呟く。騎士達も王女を慰めてやりたかったが、どう言う事も出来なかった。バスが一歩進み出て片膝をつき、言った。
「姫様…王位継承の儀を…」
残りの2人は驚く。
「団長!今は…」
しかし、王女は手で制して気丈に振る舞う。
「いえ、構いません。しかし、その剣は私では重くて持てないのでは?」
「持つ者に合わせた形状になる、と。私が持っているから、こんな形をしているだけです」
そう言うとバスは聖剣の柄を差し出した。王女は少しの躊躇いの後、その柄を握る。
すると、剣は眩い光を放ちながら形を変えてゆき、一本の美しいレイピアになった。強く叩けばすぐに折れてしまいそうな白銀の刀身に、同色のハンドガード。そこには、質素ではあるが精緻な、ツタをモチーフにしたレリーフが細工されていた。
「…このレイピア、か細いのにとても重い…」
バスはそれに頷く。
「それが貴女様の存在の重さなのです。貴女がその意志を全うできるよう、我々は貴女の剣となり、盾となりましょう」
そう言って拳を胸に当て、敬礼するバス。残り二人もそれに従った。
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