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そこには、広い草原が広がっていた。いつの間にか夜になっていたのか、空には月が輝いていた。人工物など何もない。見渡す限りの草原。遠くには切り立った山が、まるで巨大な壁のように地平線を覆い隠していた。
アストラニアでもかなりの辺境まで行かないとなかなか拝めない風景だ。クロムは思わずブレーキを踏み、停止と同時に装甲車を降りた。周囲を見回す。
「…アルハンは?アルハンはどこにいったんだ?ここは…」
クロムが上を見上げると、そこには何故か薄緑色に輝く美しく幻想的な月があった。少なくともアストラニアではそんな景色は絶対に見られない。今まで色んな本を読んだが、こんな月が見られる場所など書かれていなかった。
「…………く!」
草原の若草が、風にあおられて、ざぁっ、とざわめいた。
森を抜けられた、逃げ切ったと喜ぶリーナやルルゥ達の声を聞きながら、クロムはただ目を見開いて呆然とするしかできなかった。
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