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「あ、彩音」
「なに?」
「なんで僕の名前を…」
聞くと、彩音はクスリと笑い、塀のトランペットを手に取った。
「さぁ、なんででしょう」
いたずらっぽく笑い、楽器に口をつける。
「なんでって…」
なんでなんだ?
僕たちは今であったばかりだ。
それに僕は地味な存在。
そんな目立つようなことをして、人に名前を知られるようなことをしたわけではない。
尚且つこの学校はかなりの在校生がいたはずだ。
小さな学校ならいざ知れず、こんな大きな学校で僕の名前が知れ渡るはずがない。
眉を寄せ、考える僕を見て彩音は楽器から口をはずす。
「ヒントあげようか?」
悩む僕に彩音は小首をかしげほほ笑む。
僕は迷わず頷きヒントを聞こうとする。
「ヒントはね…」
「これ!」と彩音は手元の楽器、トランペットを指差した。
「トランペットがヒント?」
「うん」
一層わからなくなった。
なんでトランペットがヒント?!
謎を解くヒントがもらえると思ったら、逆に謎が深まった。
「…わから、ない?」
彩音がなんとなく不安そうな声を出す。
「うん、わからない」
きっぱりと告げると彩音は少し悲しげな目をして「そっか」と呟いた。
「で、どうして僕の名前知ってるの?」
「…和哉くんから聞いたんだ」
あいついつの間に声をかけたんだ…。
彩音は、再び楽器に口をつけて音を出した。
まっすぐな、きれいな音だな…。
「…彩音、その音高いよ」
僕がいったとたん、彩音は驚いたように目を瞬かせた。
「わかるんだ…」
「当たり前」
彩音に近づき、トランペットの前にたつ。
「もう一度出して」と言うと、彩音は小さく頷いて音を出した。
「あってるね」
「敦也くん、すごい」
「人間チューナーだね」と笑う彩音につられて僕も小さく笑った。
久しぶりに音を聴いたけど、鈍ってはないな。
小さく微笑み、嬉しさを覚える。
だが、それと同時に駆け巡る逆の感情。
背筋がゾクリと泡立ち、寒気がした。
「…敦也くん?」
心配そうな声にハッとする。
綾音が不安そうな顔で僕を見ていた。
「ごめん、ぼーっとしてた」
「大丈夫?汗かいてるけど…」
彩音に言われて気づく。
額を拭うとうっすらと汗が出ていた。
ドクンドクンと大きな音をたてる心臓。
…あぁ、もううるさいな。
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