第1章

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「…和哉遅」 駐輪場。 全ての授業が終わり、僕は帰宅しようとしていた。 だが、和哉と一緒に帰る約束をしていため帰れなくなっている。 あいつ、自分から誘っておいてなんで来ないんだよ… もう何度目になるかわからないため息をつき空を見上げた。 低い塀に座り、目を閉じる。 …退屈。 退屈すぎる。 はぁ、と再びため息をついたときに、小さな音が聞こえてきた。 軽やかな、弾ける様な音。 ――この音って… 聞き覚えのある音に、耳をすませる。 音は、すぐ近くで聞こえている。 「駐輪場の…裏のほう?」 塀から降りて音がするほうへとゆっくり進んでみる。 音が大きくなり、やがて、音の正体が見えてきた。 「…彩音…?」 音の先には、先ほど窓から眺めていた彩音が立っていた。 その手にあるのは綺麗な金色の楽器。 …トランペット… さっきの聞き覚えがあった音はこれだったのか…。 「…誰?」 僕の気配に気がついたのか、彩音が不安気な声を出した。 「あ、ごめん」 素直に謝り、姿を見せると彩音は「なんだ」と小さく笑った。 「誰かと思ったら、敦也くんか」 「え?」 一瞬戸惑い、目を瞬かせる。 …敦也くん? 僕は彼女に名前をいった覚えはない。 というか、彼女にあったことすらない。 それなのに、なんで彩音は僕の名前を… 「どうかしたの?」 「あ、うん…」 「あ、そっか」 彩音は手に持っていたトランペットを一度近くの塀の上においた。 それからこっちに近づいてきて、満面の笑みをみせた。 「私、彩音。中野彩音だよ」 よろしくね、と差し出された手。 僕はその手をゆっくりと握った。 …
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