その1

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小生は音楽教師である。 深夜の音楽室は、密やかに冷たい。 蒼い月明かりが窓からさしこみ、薄く室内を照らしている。 誰も居ないはずだけだが、透明なピアノの音色が静かに聞こえている。 美しくも、もの悲しい、まるで黄泉の死者と静かに語りあうような旋律──モーリス・ラブェルの[亡き王女のためのパブァーヌ]である。 目をこらすと、透けるような蒼白い人影がピアノの前に座っているのが見えた。 まただ。 このところ毎晩のように、その人影は現れる。 それは端正な顔の少年であった。 電灯も必要とせずに、目を閉じたまま、演奏に没頭している。 それは夢と現の間の、幻のような光景であった。 ………。 ………。
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