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小生は音楽教師である。
深夜の音楽室は、密やかに冷たい。
蒼い月明かりが窓からさしこみ、薄く室内を照らしている。
誰も居ないはずだけだが、透明なピアノの音色が静かに聞こえている。
美しくも、もの悲しい、まるで黄泉の死者と静かに語りあうような旋律──モーリス・ラブェルの[亡き王女のためのパブァーヌ]である。
目をこらすと、透けるような蒼白い人影がピアノの前に座っているのが見えた。
まただ。
このところ毎晩のように、その人影は現れる。
それは端正な顔の少年であった。
電灯も必要とせずに、目を閉じたまま、演奏に没頭している。
それは夢と現の間の、幻のような光景であった。
………。
………。
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