2847人が本棚に入れています
本棚に追加
「九音寺くん!」
勢い込んで零の腕にしがみつく。
走り通しで息の上がった鈴を、眼鏡越しでない零の美しい黒い瞳が静かに見下ろした。
「なんだ。来たのか」
そっけなく言う零の顔は、眼鏡がないせいかいつもと少し印象が違うと鈴は思った。
仁科から電話をもらって、何かに駆り立てられるようにしてここまで来た。
零が呼んでいる。
そう思ったのは、夢見のせいもあったかも知れない。
今、目の前にいる零はいつもと変わらぬ表情で。
だけどそれが、鈴にはひどく痛々しく見えた。
「九音寺くん、眼鏡は」
「私が預かっています」
問いかけにすかさず答えたのは仁科だ。
取り落とした物を拾ったのか、眼鏡は少し汚れていた。
最初のコメントを投稿しよう!