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「ありがとうございます」
見向きもしない零の代わりに、眼鏡に手を伸ばす。
何度も握りしめたフレームの感触が、冷たく、固く、手に馴染んだ。
「見えてるの?」
仁科とのやりとりを、迷いもせず見つめる零に、鈴は違和感を覚えた。
眼鏡は彼を異界の記憶から守るフィルターだ。
眼鏡のない状態の零の焦点が合うなんて。
(何か変だ)
訝しげに首を傾げる鈴に、気づいて零が困ったように肩をすくめた。
「見えている。・・・というか、今まで見えていたものが見えなくなった」
「見えなくなったって・・・」
零の言葉が、何故か不吉な予兆のように鈴の胸に響いた。
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