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「霊の記憶が見えなくなった。眼鏡をしなくても、まともな物しか見えない」
何でもないことのように告げると、力なく笑う。
どうして。
「どうして平気な振りするの」
真っ青な顔色で。
声ばかりが静かで。
心細いと。
不安だと気配が訴えるのに。
(どうして)
鈴の言葉に、零は心底困ったような顔をした。
「どうしてって」
どうしてもこうしても、と零が続ける。
「これが普通だろう。捨てたくても捨てられなかった余計な物が、無くなったならその方が良いに決まっている。ただちょっと、驚いただけだ」
驚いただけ。
そう言って、それ以上の追求を拒んだ零の背中が、以前見た小さな零の幻に重なって見えた。
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