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神の国、Marrakech~マラケシュ~
世界中を旅した知人に聞くまでは、存在も知らなかった街。
ここで世界一美しい夕日を見たと知人が雑談でもらしていたのを聞いた時から、必ず一度は訪れようと思っていた、そんな地の土をやっと踏んだ。
マラケシュは迷路と砂漠の街で、イスラム教徒も多く、通りを行き交う女性は黒い服を着ている。
アラビア文化を肌で呼吸しているうちに、私は白昼夢を見たのかも知れない……
ふと気がつくと、いつのまにかスークとよばれる旧市街地の迷路の中に迷いこんでいた。
「まずいな……」
日常で触れ慣れない異文化は、日本とは遠く離れたモロッコの果てで、私一人、異次元に迷いこんだのではないかと錯覚を起こさせる。
そもそもなぜ今こんな所に立っているのか、それも分からなければ、右も左も分からない。
あてもなくフラフラと歩いていると、どこからか視線を感じた。
まさか盗人……?
明らかに観光客だと分かる私の身なりは、この迷路の中ではきっと……いや、かなり危険なはずだ。
イヤな汗が滲んできて、背中を流れる。
「……誰?」
通じるはずのない日本語を、無意識につぶやいていた。
遠くに聞こえていた雑踏もいつのまにか遠のき、あたりを包みこむ静けさが薄気味悪い。
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