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「こんな所に何の用だ?」
「……え?」
物影からスーッと姿を現したその人は、いかにも物語の中のアラジンのような身なりをして、流暢な日本語を話した。
何かの舞台衣裳かな……?
なんにせよ、観光客向けのステージ衣裳のような姿で日本語を話すこの人に、張り詰めていた緊張がほぐれた。
「迷ってしまって……」
「ついてこい」
『アラジン』は顔色一つ変えず、迷路の中を庭でも歩くかのように進む。スタスタと歩きながら、後ろを振り返りもしなければ、話しもしない。半ば助かった気で私はやや小走りに後をついていった。
一軒の建物の中に入ると階段を上り、白い土壁だった所が開いた。
なんだここは……?
夢でも見てるのだろうか……そこには外観からは全く想像もつかない、きらびやかな裏部屋があった。
スークで見かけたのとは違う高級そうなベルベル絨毯の上に、高級そうなクッションが3つ置かれていて、『アラジン』はそこに胡坐をかいてこちらを見ている。
無表情な中でやけに眼光だけがギラギラと鋭い輝きを見せ、ここに来てようやく口を開いた。
「観光客か?」
「はい」
「何をしにきた?」
「マラケシュへ?…それとも迷路へ?」
「この街に」
「夕日を見に」
「……夕日?」
「はい、夕日」
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