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アラジンは胡座の膝の上に片肘をつき、何かしら考え込みながら太い宝石の指輪をした人指し指で顎をなぞっていた。
「なぜここの夕日だ?」
「世界中を旅した知人に、マラケッシュで世界一美しい夕日を見たと聞いたので」
「……本当か?」
一瞬、見えない緊張が走った。
「はい本当です。私に嘘をつく必要などありません」
必ずしも友好的ではない相手に真実を伝えようと、私は目を反らさず、まばたきもせずに告げた。
『白昼夢』
ふと言葉が浮かんだ。
いわばこの土地に舞い降りた時からもうずっと、この『夢』は始まっていたのかもしれない。
「お前たちは馬鹿だな。知りもしない私の後をのこのこと付いて来る」
旅行先特有の開放感と、更に迷路の中に迷いこんでからの『非日常』感、そして夢の中にトリップしそうなこの部屋と、この人……全てがうまく絡み合い、私を違う人間に変えていくのをさっきから感じていた。
「お前たち……とは?」
「日本人観光客」
「他にもここへ訪ねてきた人が?」
「ああ」
「で……その人たちは無事に帰られたのですか?」
「さぁな」
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