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窓もない隠し部屋……故に日の傾いた午後でも薄暗い。
燈されたランプの炎がゆらぎ、エキゾチックで甘い香りのする香が焚かれていた。
香呂からのぼる細い白煙が、私の意識を奪う。
「おもしろい」
「何がだ」
「『今』の何もかもが」
「おかしな奴だな」
「賭けをしませんか?」
「……賭け?」
「私は夕日を見にこの国へ参りました。そしてまだその目的を果たしていない。……あなたの話しによると、この部屋へ来た人たちのその後の消息の安否は分からない」
「……」
「私は夕日を見たい……その願いは叶いますか?」
「叶うと言えば?」
「あなたはここから私を無事にホテルまで帰してくださいますか?」
「……ダメだと言えば?」
「あなたの心を奪うまで」
すらすらと紡がれる自身の言葉が自分のものだとは思えなかった。
元来、私は賭けをするなどという度胸は持ち合わせていない人間だし、心を奪うなどというキザったらしい言葉を吐くような気質ではない。
むせかえるほどに立ち込めた香の中に、何か薬でも混ぜてあるのか……
妖しい香りがますます私をトリップさせていくようだった。
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