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そこの一室に住む女は、毎朝毎朝心地よい声を聞きながら目覚めるのが日課だ。
「お嬢様、朝でございます」
…………かれこれ、何十回この声が響いた事だろうか。
「お嬢様、朝でございます」
女はこの声をずっと聞いていたいが為に、中々起きてこないのだ。
「お嬢様、朝でございま…」
30回目になろうかという頃、その声はかきけされた。
いや、正確には止められた。というへきなのだろう。
「平!!いい加減に起きろ!!」
「あぁー……。あと20回は聞きたかったのに…」
平と呼ばれた女はもぞもぞと丸まっていた布団から起き上がって、無造作に止められたそれを大事そうに胸に抱える。
「馬鹿か!!そんなアイドルの声なんて何がいいんだ」
「ちょっと藤間さん!アイドルじゃないですよ!アニメの声優さんです!」
「一緒だろ」
「ぜんっぜん違います!!」
平は大事そうに目覚まし時計を抱き締めた。その声はまさか従える執事の声でも無く、またそんな遊びをしていたのでも無く、機械的に目覚まし時計から鳴った目覚ましの声だった。
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