第一話

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小さなキッチンはあるが、使った事はない。 朝は水のみ。 昼は学食。 夜はカロリーメイトだけだ。 玄関を出て、エントランスを抜けると、まだ道端に残る雪が朝の光に反射して、思わず目を細める。 高校まで歩いて五分程度の距離を早足で歩く。 要は人混みが嫌いだ。 人が放つ雑音に頭が割れそうになるからだ。 彼が嫌う雑音とは、人の心の声。 声帯を使って出す声の他に、もう一つの心の声が不協和音となって聞こえてくるのだ。 口から出た言葉と心の声が同じ事を言う人間などいない。 綺麗に微笑みながら、心の声は毒づいている。 そんなギャップに吐き気さえ覚えた。 そんな毎日が、要を人間嫌いにするのには時間がかからなかった。
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